経営事項審査(略して経審)とは、公共性のある施設又は工作物に関する建設工事(公共工事)を発注者から直接請け負おうとする建設業者が必ず受けなければならない審査です。公共工事の各発注機関は、競争入札に参加しようとする建設業者についての資格審査を行うこととされており、発注機関は欠格要件に該当しないかどうかを審査した上で、客観的事項と主観的事項の審査結果を点数化し、順位付け、格付けをしています。このうち、客観的事項の審査が経営事項審査であり、この審査は「経営状況」「経営規模、技術的能力その他の客観的事項(経営規模等評価)」について数値により評価するものです。つまり、客観的事項の審査は都道府県が統一的に行い、主観的事項の審査は各発注機関が行います。
以上の関係が成り立ちます。
なお、経営事項審査を受けなけば請け負うことができない建設工事の発注者一覧は以下の通りです。
「国」
「地方公共団体」
県、市町村、地方公共団体の一部事務組合・広域連合、財産区、地方開発事業団
「独立行政法人」(出資額等の全部が国もしくは地方公共団体の所有に属するもの等)
「地方独立行政法人」
「公庫・銀行」
沖縄振興開発金融公庫、株式会社国際協力銀行、株式会社日本政策金融公庫
「事業団」
日本下水道事業団、日本私立学校振興・共済事業団
「基金」
社会保険診療報酬支払基金、消防団員等公務災害補償等共済基金
「振興会」
公益財団法人JKA
「センター」
日本司法支援センター
「協会」
日本中央競馬会、日本放送協会、地方競馬全国協会
「機構」
地方公共団体金融機構、地方公共団体情報システム機構、日本年金機構
「公社」
地方住宅供給公社、地方道路公社、土地開発公社
「組合等」
水害予防組合、水害予防組合連合、土地改良区、土地改良区連合、土地区画整理組合、
農林漁業団体職員共済組合
「研究所等」
国立大学法人、大学共同利用機関法人、港務局
「会社等」
東京湾横断道路建設事業者、成田国際空港株式会社、関西国際空港株式会社、
中間貯蔵・環境安全事業株式会社、東京地下鉄株式会社、日本たばこ産業株式会社、
日本電信電話株式会社、西日本電信電話株式会社、東日本電信電話株式会社、
九州旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、
西日本旅客鉄道株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、北海道旅客鉄道株式会社、
日本貨物鉄道株式会社、首都高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、
西日本高速道路株式会社、東日本高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社、
本州四国連絡高速道路株式会社
なお、経営事項審査の対象外となる組織は次のとおりです。
公益財団法人、公益社団法人、一般社団法人、一般財団法人、社会福祉法人、
公立学校共済組合、地方職員共済組合、日本郵政グループ、農業公社、林業公社、
森林組合、農地・水・環境保全活動に関する組織等
経営事項審査を受審すれば公共工事受注への道が開かれますが、審査は大変厳格です。建設業法を遵守することが必要です。熊本県土木部監理課監修、熊本県建設業協同組合発行「令和6年度経営事項審査の手引き」より抜粋しました。以下のポイントを今一度ご確認ください。
建設業法では、建設業の業種を2種類の一式工事と27種類の専門工事に分類しており、建設工事を請け負うにあたっては、軽微な工事を除き、必要となる業種ごとに建設業の許可を受けなければなりません。許可を受けた建設工事を請け負う場合において、その建設工事に附帯する他の建設工事を請け負うことが可能です。
例えば、建築一式工事のみの許可を持っている場合、1棟の住宅建築工事を請け負うことはできますが、大工工事、屋根工事、内装仕上工事、電気工事、管工事、建具工事などの専門工事を単独で請け負う場合は、軽微な工事である場合を除き建設業法違反となります。
※許可の必要ない軽微な工事
建築一式工事以外の工事 | 請負代金の額が税込500万円に満たないもの |
建築一式工事 |
請負代金の額が税込1,500万円に満たないもの 又は延面積が150㎡に満たない木造住宅工事 |
一般建設業と特定建設業とも、請負額の制限はありませんが、発注者から直接請け負った工事を下請けに発注できる金額に違いがあります。一般建設業の方は、下請契約の総額が税込4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上は下請に発注することができません。一方、特定建設業者の方は、下請契約の総額に制限はありません。
この規定は、自社が元請である場合にのみ適用されます。下請業者として契約した場合は、一般建設業者の方であっても、再下請に発注する金額の総額に制限はありません。
特定建設業は下請負人の保護の徹底を図るために設けられた制度であり、特定建設業者には下請代金の支払期日の定め、下請負人に対する指導、立替払などの特別の義務が課せられます。
また、特定建設業の取得の許可にあたっては、営業所の専任技術者の資格や財産的基礎などに関し、一般建設業よりも厳しい条件が課されています。
建設業の許可を受けている建設業者は、請け負った工事を施工する場合、元請下請、金額の大小にかかわらず、「主任技術者」を置かなければなりません。
主任技術者は、施工計画の作成や工程管理など、その工事現場における施工の技術上の管理を行います。
主任技術者になり得る人は、その請け負った工事の種類に係る一般建設業の営業所の専任技術者になり得る資格のある人(国家資格者、実務経験者など)です。
元請として発注者から直接請け負った工事で、下請契約の総額が税込4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上となる場合は、主任技術者の代わりに、「監理技術者」を置かなければなりません。
監理技術者の業務には、主任技術者の業務に加え、下請人の適切な指導・監督なども含まれます。そのため、監理技術者になり得る人は、その工事の種類に係る特定建設業の営業所の専任技術者になり得る資格のある人(一級国家資格者など)であり、主任技術者の要件より厳しくなっています。
また、監理技術者を置く必要があるのは元請業者だけです。自社が下請業者の場合は、再下請に出す金額が大きくなっても、配置する技術者は監理技術者ではなく主任技術者です。
以上のように主任技術者と監理技術者は、一つの工事にどちらかが置かれることになります。なお、主任技術者・監理技術者には、基本的には自社社員でない在籍出向者をあてることはできません。
令和2年の改正建設業法の施行により、特定専門工事(請負金額が税込4,000万円未満の鉄筋工事及び型枠工事)については、元請と下請の合意があり、元請が一定の経験を有する主任技術者を専任で置いた場合は、下請の主任技術者の設置は不要となりました。
公共性のある工作物に関する工事(個人住宅を除くほとんどの工事)で、請負金額が税込4,000万円(建築一式工事の場合は8,000万円)以上の工事を施工する場合は、元請下請にかかわらず、主任技術者の又は監理技術者を現場ごとに専任で置く必要があります。現場専任とは、常時継続的に当該工事現場に係る職務にのみ従事していることをいい、他の現場の技術者との兼任は認められません。また、JV工事においても、請負金額が税込4,000万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上の工事を施工する場合は、出資の割合に係らず、すべての構成員が監理技術者又は国家資格を有する主任技術者を専任で置くことが求められています。
現場専任が必要な工事のうち、密接な関係にある2つ以上の工事を同一の場所又は近接した場所において施工する場合は、同一の主任技術者が兼任することができますが、監理技術者の場合は兼任は認められません。ただし、令和2年の改正建設業法の施行により、監理技術者の専任が緩和され、監理技術者補佐を専任で設置すれば、監理技術者が2現場まで兼務できるという規定が設けられました。監理技術者補佐には、もともと監理技術者として認められる1級施工管理技士の有資格者と、令和3年度の技術検定の再編で創設された「技術補」のうち1級第一次検定に合格した1級技士補をあてることが可能です。
公共工事及び重要な民間工事においては、現場に専任されている監理技術者は「監理技術者資格者証」の交付を受け、かつ、監理技術者講習を受けている者でなければなりません。
また、営業所専任技術者は、専任を要する工事の主任技術者又は監理技術者にはなれません。なお、技術者の専任性が求められていない工事に営業所専任技術者が兼任するには➀当該営業所において請負契約が締結された建設工事であって、②工事現場の職務に従事しながら実質的に営業所の職務に従事しうる程度に工事現場と営業所が近接し、③当該営業所との間で常時連絡のとりうる体制にある必要があります。
主任技術者・監理技術者は建設業法の規定に基づき、配置される技術者です。一方、現場代理人は、契約に定めがある場合に配置される者で、工事現場の運営、取り締まりを行うほか、代金の授受などを除いた請負契約に関する一切の権限を行使する人です。従って、現場代理人は必ずしも技術系の職員でなくてもかまいません。
また、主任・監理技術者と現場代理人は兼任することもできます。
現場代理人は、公共工事においては、工事現場に常駐することが求められています。但し、発注者が認めた要件のもとに、常駐義務が緩和される場合があります。
特定建設業者が受注した民間の元請工事で、下請契約の総額が税込4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上になる場合には、施工体制台帳を作成しなければなりません。
また、公共工事については、元請業者が下請契約を締結する時には、その金額にかかわらず、施工体制台帳を作成し、その写しを発注者に提出しなければなりません。
一括下請負は、発注者が建設工事の請負契約の締結に際して建設業者に寄せた信頼を裏切ることなどから、建設業法では、いかなる方法をもってするを問わず、建設業者が受注した工事を一括して他人に請け負わせること、他の建設業者が請け負った工事を一括して請け負うことを禁止しています。この規定は、公共工事及び民間工事においても共同住宅を新築すること建設工事については、あらかじめ発注者の書面による承諾を得ている場合においても一括下請は全面的に禁止しています。
次のような場合は、元請負人がその下請工事の施工に実質的に関与している認められるときを除き、一括下請負に該当します。
➀請け負った建設工事の全部又はその主たる部分を一括してほかの業者に請け負わせる場合
②請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の工事を一括して他の業者に請け負わせる場合
「実質的に関与」とは、元請負人が自ら総合的に企画、調整及び指導(施工計画の総合的な企画、工事全体の的確な施工を確保するための工程管理及び安全管理、工事目的物、工事仮設物、工事用資材などの品質管理、下請負人間の施工の調整、下請負人に対する技術指導、監督等)を行うことをいいます。単に現場に技術者を置いているだけではこれに該当せず、また、現場に元請負人との間に直接的かつ恒常的な雇用関係を有する的確な技術者が置かれていない場合には、「実質的に関与」しているとはいえないことになにますので注意してください。
一括下請負の禁止に違反した建設業者に対しては、建設業法に基づく監督署分等により厳正に対処することとしています。(原則として営業停止処分。)また、一括下請負を行った工事については、当該工事を実質的に行っているとは認められないため、経営事項審査の完成工事高に含めることはできません。
建設業者は、上記に説明した内容を含めた建設業法や、建設業の営業に関連するその他の法令の規定を遵守する必要があります。
建設業法やその他の法令の規定が遵守されない場合には、指示処分、営業停止処分の監督処分を受け、悪質な違反の場合は許可の取消を受けることになります。また、監督処分を受けた場合、発注者による指名停止を受ける場合もあります。
経営事項審査申請書、財務諸表等に虚偽の記載を行い、当該申請による経営事項審査結果に基づき入札参加資格審査申請(いわゆる、指名願い)を行った場合は許可行政庁から監督処分(指示処分、営業停止処分)を受けることになります。また、監督処分を受けた場合は発注機関毎に指名停止を受けることもあります。
建設業法においては、経営事項審査申請書、経営状況分析申請、財務諸表等に虚偽の記載をして提出した者は、6カ月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることになります。また、国土交通大臣又は都道府県知事が経営事項審査のために必要と認めて申請者である建設業者に報告を求め、又は資料の提出を求めたにもかかわらず、報告をせず、もしくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告をし、もしくは虚偽の資料を提出した場合には、100万円以下の罰金に処せられます。なお、上記の刑に処せられた場合には、許可の取消しを受け、5年間は改めて許可を受けることができないこととなります。